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コロナ休業の「新制度」で大激変? 上限は月33万円、学生アルバイトも対象か

助成金情報2020.05.15

 

「雇用されている方が直接申請することができ、そして直接お金を受け取れる新たな制度を創設いたします」。

 

安倍首相は、14日の記者会見でこのように述べ、事業主から休業手当を受け取れなかった労働者に対して直接給付金を支給する制度を新たに創設する考えを表明した。

 

長引く休業によって収入が激減し、生活に不安を抱える人々にとって、希望の光ともいえる制度であり、速やかな実行が期待される。

 

ただ、政府への不信感から、本当に実効性のある制度ができるのかを疑問視する声もある。一体どのような制度が検討されているのだろうか。

 

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想定される新たな給付金制度の仕組み

報道されている内容をもとに、想定される新たな給付金制度の仕組みについて述べていきたい(現時点で報道されている情報をもとに想定される内容であり、政策決定過程において大幅な変更が生じる可能性があることにご留意いただきたい)。

 

まず、対象となるのは、雇用調整助成金を申請していない中小企業の従業員である。休業を余儀なくされたにもかかわらず、事業主から休業手当の支払いを受けていない人々を救済することが新たな制度の目的だ。

 

中小企業に焦点が当てられているのは、申請に必要な書類を用意できなかったり、助成金を受け取る前に休業手当を支払う余裕がなかったりして、雇用調整助成金の申請に至っていないケースが多いからだろう。あくまでも雇用調整助成金を通じた所得保障にプライオリティーがあり、それによってカバーできていない層を給付金の支給によって支えるという考え方がとられているものと推測される。

 

次に、給付金の額は、月33万円程度を上限に、月額賃金の8割程度を給付する方向で調整が進んでいる。労働者ごとの直近の平均的な賃金をもとに計算されるようだ。

 

上限の33万円という数字は、上限額を引き上げた後の雇用調整助成金の一月分に相当する金額に合わせている(引き上げ後の上限額15,000円×22日(=一般的な1ヶ月当たりの勤務日数))。

 

参考までに、失業手当の額と比較してみよう。失業手当の日額は、直近6ヶ月の賃金から算出された賃金日額の50~80%(60歳未満の場合)で、その上限額は8,330円である。新設される給付金の具体的な算出方法はわからないが、失業手当を上回る水準にはなりそうだ。

 

そして最も重要なのが、給付金の支給方法だ。これについては、事業主を介さず、労働者個人が直接ハローワークとやりとりする仕組みが想定されている。

 

日経新聞の報道によれば、休業した労働者が事業主から「休業証明」を受け取り、自らハローワークに申請することによって、直接本人に給付金が支給される仕組みになるようだ。

 

手続きに必要な「休業証明」は、退職時に事業主から交付される離職票に似た様式だと予想される。この様式に、事業主が直近の賃金や休業した日数などを記載し、それをもとにハローワークにおいて給付金の額が算出され、支給される仕組みが想定される。雇用調整助成金と比較して、かなり簡素な手続きになるだろう。

 

参考:休業者に賃金の8割直接給付 厚労省方針、支援迅速に(2020年5月14日 日本経済新聞)

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59055060T10C20A5EA1000/

 

 

参考:休業者に直接給付金 政府調整、新型コロナ対策で(2020年5月14日 時事ドットコムニュース)

https://www.jiji.com/jc/article?k=2020051401187&g=pol

 

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新たな仕組みができた理由は?

なぜこのような仕組みが作られたのだろうか? 背景には、世間から「補償なき休業要請」と批判されてきた現行制度の欠陥がある。

 

休業中の労働者の生活を支える施策として政府がこれまで重視してきたのは、雇用調整助成金制度のたび重なる拡充であった。しかし、助成金の申請や支給は思うように進んでいない。申請手続が煩雑、支給まで時間がかかるといった事情から、申請をしない(できない)事業主が多いためだ。

 

助成金を活用して休業手当を支払うように労働者が求めても、事業主がこれに応じなければ、休業補償の枠組みから漏れてしまう。こうして、職場で弱い立場に置かれやすい非正規労働者をはじめ、多くの労働者に施策の効果が行き届いていなかった。

 

実際、筆者が代表を務めるNPO法人POSSEには、「非正規には休業手当が支払われない」、「会社が助成金を申請してくれず、解雇されそう」という労働相談が非常に多く寄せられている。

 

例えば、都内の大手百貨店のアクセサリーショップで働いていた契約社員の女性は、緊急事態宣言の発令に伴う百貨店の臨時休業により休業を余儀なくされた。その際、社長から「休業手当は支払えない。自宅待機でいいなら好きにしてもらってかまわないけど、給料は出ないよ。嫌なら他で働いて」などと告げられてしまったという。

 

雇用調整助成金の申請を求めたが、「書類がいっぱいで大変だから無理。そんな暇はない」と言われ、応じてもらえなかった。「困ります」と抗議したが、「休業手当を支払うためのお金がない。会社を潰す気か」と言われてしまい、仕方なく退職届を書いてしまったのだという。

 

こうした問題は社会全体に蔓しており、特に緊急事態宣言の発令以降、無給の休業を強いられたり、職を失ったりする労働者が増えていた。

 

このため、より簡単で確実な休業補償の仕組みが求められていた。そこで、現場の実態を知る支援団体などが要望してきたのが「労働者側から休業補償を請求する仕組み」だ。筆者も参加する「生存のためのコロナ対策ネットワーク」も、「提言:生存する権利を保障するための31の緊急提案」において、その必要性を訴えてきた。

 

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新たな給付金の創設によって何が変わるか

次に、新たな給付金制度がもたらす効果について考えてみよう。

 

上に述べたように、今回検討されている給付金制度については、事業主を介さずに労働者に直接支給される仕組みが想定されている。制度が創設されれば、この数ヶ月に渡って労働者たちを悩ませ続けてきた、「事業主が申請しない限り制度を利用できない」という問題に一定の改善がもたらされる形になる。

 

また、新たな給付金制度では、迅速な支給が可能となる見込みだ。簡易な手続きで申請できるため、審査にも時間を要さず、申請から1週間程度で支給できる可能性があると報じられている。

 

この制度ができれば、長期間の休業を余儀なくされている多くの労働者に速やかな給付を行い、その生活を支えることができるだろう。事業主からすれば、金銭的な負担を負うことなく、従業員の雇用を維持することができる。このため、整理解雇を抑制し、失業者の増加を防止する効果も生じる。

 

さらに、新たな給付金制度は、深刻化する学生の生活困窮の解決策ともなり得る。

 

飲食店など、アルバイト先で「戦力化」され、基幹的な労働力として働いている学生が多いにもかかわらず、その法的権利は軽視され、当たり前のように休業手当が支払われていないことが多い。

 

コロナ禍で学生が生活困窮に陥る要因は、実態としては「労働者」のように働きながら、弱い立場に置かれ、労働者としての権利を行使できないという矛盾にある(このことはほとんど指摘されていない。)。

 

新たな給付金制度では、雇用保険に加入していない学生アルバイトなども対象になる見込みだ。困窮する学生に対する救済策としても有効に機能するものと思われる。

 

参考:休業者に新給付金 新型コロナ、アルバイトも対象―加藤厚労相(2020年5月14日 時事ドットコムニュース)

 

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「みなし失業」との違いは?

今回検討されている給付金制度は、災害時などに適用されてきた「みなし失業」の仕組みを参考にしている。「みなし失業」とは、休業を余儀なくされ、給与を受け取ることができなくなってしまった人について、実際には離職していなくても、失業しているとみなして、失業給付を受給できるようにする雇用保険の特例措置である。

 

政府は、当初、この「みなし失業」をコロナ禍に適用することを検討していたが、結果的には給付金方式を選択した。

 

では、「みなし失業」と給付金方式とでは何が違うのだろうか。結論からいえば、給付金方式は、「みなし失業」よりも、さらに「進んだ」施策だといえる。

 

「みなし失業」の場合、あくまでも雇用保険を特例的に休業労働者に適用するものであるから、雇用保険に加入していない学生アルバイトなどは対象外になる可能性があった。また、失業手当を受給するためには、雇用保険への一定の加入期間が必要となるため、就労期間が短い労働者も、原則からいえば対象外となってしまう。

 

さらに、これも原則からいえば、「みなし失業」による失業手当を受給すると、それまでの被保険者期間がリセットされてしまう。そうすると、コロナの影響が長期化し、本当の「失業」をした場合には失業手当を受けられなくなってしまう可能性があった。

 

要するに、雇用保険という社会保険制度(保険料負担の見返りに給付を受ける仕組み)の枠組みでは、一定の要件を満たさない者は保護の対象から漏れてしまう。それに比して、今回の制度はより福祉的要素が強く、普遍的に生活を保障することができる給付金方式が選択されたとみることができる。

 

政府が給付金方式に切り替えた背景にはこのような事情があったのではないだろうか。今後の検討次第では、「コロナの影響による休業によって収入を失った」という事実さえあれば誰でも救済するという普遍性の高い制度となる可能性がある。

 

今回の制度は、緊急時の福祉政策に新しい前例を作る、画期的なものとなる可能性を持っているのだ。

 

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引き続き、雇用調整助成金の活用は重要

一方で、課題も残る。新たな給付金制度の対象は中小企業に限られ、大企業に雇用される労働者は対象とならない見込みだ。

 

大企業だからといって休業手当を支払うとは限らない。例えば、フィットネスクラブ・スポーツジム業界最大手のコナミスポーツ株式会社は、アルバイトのインストラクターに休業手当を支払っていない。

 

 

 

今後も、休業を余儀なくされ、十分な生活収入を得られていない大企業の労働者は、会社に対して雇用調整助成金の活用によるできるだけ多くの休業手当の支払いを求めていくしかない。

 

参考:非正規が9割でも「見殺し」の現実 コナミスポーツは時給社員に休業手当を一切「不支給」

 

また、今回の給付金のニュースを知り、「国から給付金が出るなら、会社が休業手当を負担する必要はない」と考え、雇用調整助成金の申請を見合わせたり、休業手当を支払わなくなったりする事業主が出てくることも懸念される。

 

新たな給付金制度は、あくまでも政府が創設の意向を示した段階に過ぎず、正式に決定したものではない。具体的な内容は決まっていないから、このことをもって「会社から休業手当を支払ってもらわなくても大丈夫だ」と考えるのは危険だ。法律の施行前に遡って適用されるのか否かも現時点ではわからない。

 

労働者としては、むしろ、「給付金が支給されるまでの間だけでもいいから、休業手当を支払ってほしい」と事業主に求めるほうがよいだろう。労働組合の力を活用するなどし、会社と交渉していくことは、今後も引き続き重要になってくると思われる。

 

参考:「会社が国の助成金を利用してくれない」コロナ危機のなか、立ち上がり始めた労働者たち

 

 

 

 

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